社長挨拶

【プチ狂気な笑い】

入社おめでとうございます。
ひとまずそう言っておきます。
しかし、実のところ、ちっともめでたくなどありません。
めでたいなどと思ったら大間違いです。
見当違いも甚だしい。
冗談も大概にして頂きたいところであります。
噴飯ものでございます。


なぜか?
諸君はこのように問われるかもしれません。
今に分かります。
そのうちに、嫌でも身に沁みて分かることと思います。
だから詳しくは述べません。
しかしながら、一つだけ言っておきます。


えー、今後諸君らに自由はありません。
もはや諸君らには独自の思考をし、行動をする自由などは残されてはおらないわけなのであります。
諸君らは今日この日より、いわば社畜であります。
上司の命令には絶対服従
そんなことは当然です。
上司が白と言えば、黒い物も白くなるのです。
上司が死ねと言えば、諸君らはもう死ぬしかないわけであります。


はい、静かにしてください。
今、前列から順番に教育担当が殴っております。
諸君らの態度がこの上なく悪かったからであります。
これはやむを得ないものと考えてください。
男女の区別はございません。
男女雇用機会均等法の元の平等でございます。
こういうところばっかり平等でございます。
給料や出世では露骨に差をつけております。
女子の諸君は働いても働いても、これはもう一向にうだつが上がりません。
一生雑用みたいなものであります。
己の不運を嘆いて頂きたいところなのであります。


まあそういったところはどうでもいいのですが、一通り気合も入れ終わったようです。
しかしながら、鼻血を出して倒れている馬鹿者がおります。
嘆かわしいことです。
根性が欠如しております。
早くも減俸決定です。
一年間20%の給料カットです。
採用担当者も同様であります。
駄目なりに体力くらいはある奴を採って来んか馬鹿者が!
とまあ、こういったことになるわけでございます。


さてこういった状況の中、諸君らの顔から徐々に生気が失われているのが手に取るように分かります。
私は毎年、それを見るのが大好きです。
典型的なサディストであります。
諸君らを今後とも徹底的にいじめぬく所存でございます。


万が一にも、辞めようなどという気は起こさぬことです。
なぜならば、当社に入社しようとした諸君らなどには、残念ながら他に働く場所など考えられぬからであります。
諸君は、他の会社には受からなかったものと思います。
そんなことは当然であります。
諸君は、箸にも棒にもかからぬ半端者達だからであります。
買い手市場のこの厳しい就職戦線において、負け組であるのが諸君なわけなのであります。
この会社が最後の砦なわけであります。
ここを辞めたらもう行く所などないわけであります。


悪いことは言いません。
辞めることなど考えるのはおよしなさい。
ここで頑張ってみようじゃないですか。
死ぬ気でやってみようじゃないですか。
自分の意思など捨てて、会社と一体化してみようじゃないですか。
つまらぬプライドなどは捨てて、会社の犬となってみようじゃないですか。


諸君は必ず生まれ変わります。
一年後には、鍛えぬかれ、別人のようになります。
鋼のような意志をもった、忠実なロボットになります。
ロボトミーであります。
廃人同様でございます。
そうなるまで徹底的に鍛えぬきます。
潰れる寸前までしごき抜きます。
精神的にも追い詰めて参ります。
泣き叫ぶのもお構いなしです。
心も体も傷だらけでございます。
そうしてやっと一人前であります。
それが当社の伝統でございます。


いざ一人前になっても、毎年ノルマは増える一方です。
達成しなければ厳しく叱責し、減俸につぐ減俸であります。
精神的にも追い詰めて参ります。
陰湿ないじめが全社的に展開されて参ります。


一方でノルマを達成すれば、ハードルは天井知らずであります。
常に目の前にニンジンをぶら下げて、倒れる所まで目一杯走らせる所存です。
倒れた所が諸君の墓場です。
目の前には諸先輩方の死体が累々と重なっております。
それを乗り越えて走るのが諸君であります。


完全歩合制です。
やるかやられるか。
諸君のやる気次第であります。
いや、成果次第であります。
やる気などこの際、何の役にも立たないわけであります。
結果が全てであります。
金です。
全ては金です。
金を稼ぐことです。
会社に金を儲けさせることが君たちの使命なのであります。


会社は現在火の車であります。
前期の賞与も未払いであります。
毎月給料は現物支給です。
莫大な借金があるためです。
稼いでも稼いでも全て利息の支払いで持って行かれます。
バブル期に投資に失敗したツケであります。


諸君には何の責任もありません。
しかしながら、義務だけは負って頂くわけであります。
なぜか。
不景気だからであります。
諸君には、利息の支払を超えて稼いで頂く必要があるわけなのであります。
更に言えば、そうしなけりゃお前らの給料は出ないぞと、こういったわけなのでございます。
行くも地獄、行かぬも地獄なわけであります。
もう諦めるしかないわけであります。


恐らく前世の報いです。
諸君らは相当悪いことしたのです。
オヤジ狩りなどをしたのです。
私は許せない。
私は一生許しません。
のぼせ上がった餓鬼どもが心底許せないのです。
のぼせ上がったプライドをズタズタに引き裂いてやるのです。
貴様らの自信に何の根拠もないことを、身をもって思い知らせてやるのです。
一生をかけて償ってもらうわけであります。
私は今から楽しみであります。
諸君らの苦悶に歪む顔を見るのが楽しみなのであります。
苦痛を与えるのは私なのであります。
それが私の力なのであります。
権力を持つということはそういうことなのであります。
私は今年もまた自分の権力に酔い痴れるのであります。
倒産寸前の我社において、それだけが私の楽しみなのであります。


以上、甚だ簡単ではございますが、入社のお祝いの言葉とさせて頂きます。
がんばってください。
(拍手)