「偶然の音楽」(ポール・オースター)

破滅に向かう人々に惹かれてしまう。「眩暈の感覚」(ミラン・クンデラ)というか。
過剰を抱えた人間、弱い人間には美の感覚がある。それはボーダーラインぎりぎりの所で生きているために、強烈な「生」そのものを体験するからだろう。

主人公は職を捨て、車でどこまでも「先」へと進む。ジャック・ケルアックの「路上」のように。過剰、あせり、不安を抱え。目的もなく先を目指し続けることは、人生そのものなんだろう。
そして出会った男のポーカーの腕に全財産を賭ける。
ギャンブルに身をさらしている人は、理屈を越えた、運命の偶然性のようなものを強く感じるという。「ダイスを転がし続ける」、それは隠ぺいされてはいるが、人生そのものなんだろう。
主人公たちはギャンブルに負け、ひたすら石を積み上げつづけるという不条理な罰を受ける。
それは、どんなに不条理であっても、意味がなくても、やらなくてはいけない仕事なのだ。誰かが見ているからとか、何かの役に立つからとかは関係なく、それはいつかはやらなくてはいけない仕事なのだ。
人生そのものについて書かれている本だ。