TFP(全要素生産性)の上昇

日本経済研究センター 深尾京司一橋大学教授
080509 日本経済新聞

※TFP(全要素生産性:Total Factor Productivity)の概念は、経済学の1つのまとまった成果として位置づけられるものであり、近年の経済白書においても経済成長を論じる1手法として採り上げられています。TFPは、通常、経済成長率を資本(資本ストックの伸び×資本分配率)及び労働(労働投入量の伸び×労働分配率)等の生産要素では図れない部分として、すなわち、資本と労働の貢献分以外の残差として定義づけられています。

<ポイント>
(1)日本の成長回復の主因はTFP上昇率の高まり。
・生産性向上に寄与する他の要因である「労働投入」(マンアワーと質)、「資本投入」は、90年代の成長率より落ちている。
(2)TFPは90年代の0.2%から2000−2005年は1.3%に。
・米国の2.0%には及ばないが、EU平均の0.2%を上回る。
・業種別に見ると、製造業のみならず非製造業でも伸びている。
(3)リストラ型のTFP上昇は問題含み。
・非製造業では、生産量を減らすことなく、生産要素(労働や資本)投入の削減に成功している。(=リストラ型)
・製造業では、労働の質の向上(パートの削減など)も見られ、グローバルな生産の結果、日本に資本集約型、熟練労働集約型の生産が残った影響が考えられる。
・リストラ型では、労働の質向上や設備投資は抑制されるという副作用がある。これらの促進策が望まれる。

<課題>
・95年以降の米国での急速なTFPの上昇は、無形資産投資や非製造業でのIT投資に支えられてきた。日本では2000年以降もこれらの投資が低迷している。
・製造業では、韓国の機械系、台湾の電機産業などのTFPが日本のそれを上回る伸びを示している。
・非製造業では、コンピュータ・情報系の国際化の遅れが著しい。また、国内での成長のスピードも米国と比べて遅い。

<その他>
・政府はこれまで「日本の労働生産性はG7の中で最低水準」などとしていたが、実はこれまで直近の生産性に関する精密な分析はできていなかった。今回の報告が初の本格的な分析である。

<感想>
日本の労働生産性の低さ、特に非製造業の生産性の低さというのは最近至るところで言われており、客観的事実として受け入れていたのだが、そして私の「日本に対する誇り」とかそういった感情の数%位を毀損していたのだが、なんだよちゃんと分析できていなかったのかよ。といった感じである。
日本のサービス業と言ったら偽装管理職サービス残業の世界である。「労働投入量」がどのように測られているのか分らないが、サービス産業分は少なく計算されているのだろうきっと。それにも関らず十分休んでいそうなヨーロッパよりも生産性が悪いとしたら、日本人はよっぽど能力が低いのか?ということになり、若干憂鬱になったわけだが、まあ若干安心した。それなりに愛国心があるということか。
いや、「リストラ型」って人ごとではなく、過去10年、身の回りでも人が減らされ、設備投資が先送りにされ、閉塞感の中で仕事量ばかり増えて個人が暗い顔をしながら大きな負荷を背負ってきた。90年代後半以降、日本中の多くの企業でこのような苦労してきたのだろう。それでも生産性が低いなら、これ以上どうしたらいいんだ?というやるせない思いが若干解消されたということかもしれない。
ただ、それでも非効率なことや無駄は山のように存在しており、特に「ホワイトカラーの生産性」なんてものが、もっと大幅に改善されなくてはいけないのは事実だろう。