「SMiLE ミレニアム・エディション」(ビーチボーイズ)

海賊版である。「全世界限定1000枚発売」などと、ありがたいんだか人気がないんだかよく分からない文句がジャケットに印刷されている。そして、中には確かに「958」とプリントされた紙が入っている。
うーん、残念だが、ちっともありがたみがない。
以前買ったのだが、あまりにも混沌として夢そのもののようで、頭が痛くなったので、1回しか聴いていなかった。
ブライアン・ウィルソンによる正規版スマイル(以下、「新スマイル」という。目薬ではないが。)が良かったので、改めて聴いてみることにしたのだ。
すると・・・。
良いのである。
驚いた。
音が光っているようだ。


最初にこの海賊版のスマイル(以下「原スマイル」という)を聴いたときの印象は、「きれいな混沌」、「明るい『レボリューション・ナンバー9』(ビートルズ)」であった。
僕は比較的「レボリューション・ナンバー9」などの前衛には理解を示す方なのだが(少なくとも、頭では理解するのだが)、それにしてもこれは混沌としていて、長すぎた。
その中で、「グッド・バイブレーション」だけが完成度が高く、完全に浮いていた。
しかも、CDショップのポップには「最後にマル秘ボーナストラックが・・・」みたいなことが書いてあり、何かと思いつつ聴いていると、やがて始まる「サージェントペパーズ・・・」のイントロ。
ああ、やっぱりいいよね。・・・って、ビートルズかよ。持ってるよこれ。
などと思いながらも曲は続き、途中から怖くなってきた。結局、全曲完奏だった。意味が分からなかった。
そして、2枚組のCDの中でサージェントの部分が一番良かったのが致命的だった。
そのまま、お蔵入りになったのだった。


その後、再構成された新スマイルを聴くと、以前の日記で書いた通り、素晴らしかった。原スマイルと、素材は同じなのだが、混沌がうまく整理され、全体に流れができて、美しく調和していることが分かった。「グッド・バイブレーション」も新スマイルでは全体の一部を構成しており、全く浮いてはいなかった。
新スマイルの製作は、混沌から美を作り出す作業だったのだと思った。
捨てることもまた創造なのだった。いや、いかに捨てるかということこそが、芸術にとっては重要なことなのかもしれなかった。
日本の文化などは特にそうで、日本画、浮世絵、庭園から生け花、庭木の剪定まで、いかに省略するかということがテーマなのだった。


そして、新スマイルという芸術作品に一度触れると、「自然」そのままの混沌を残した原スマイルから、美はより荒々しく、新鮮に立ち現れてくるのだった。
それは、芸術作品に触れることによって、自然の風景の中から美を汲み取る能力が高まるということだった。原生林につけられた道と同じだった。

そして、愛聴盤がまた1枚増えたのだった。
(☆☆☆☆)