「海辺のカフカ(上)」村上春樹

再読。
こんなに立て続けに小説を読んだのは、久しぶり。
これも、「アフターダーク」の読後感が中途半端だったおかげといえる。
さすがは村上春樹である。読書欲をありがとう。


ところで、この本、改めて読むと名作である。
最高傑作ではないか?
軽さと深さのバランスが素晴らしい。
この人の本は、つい先を読み急いでしまうので、2回以上読まないと内容が十分に入ってこないのかもしれない。


テーマは繰り返されている。
主人公カフカ少年は、世界のねじを巻き続けている。
毎日決まった筋トレをして、体をきれいに洗う。
そうすることで、世界一タフで孤独な15歳は世界につながっているのだ。


「運命は全てを失った人のもとに現れる」と以前書いたけれど、「ナカタさん」はまさにそういう人で、向こう側の世界に魂の半分を置いてきてしまった、完全に損なわれている人だ。しかも「救われている」というのがすごい所で、こういうキャラクターは今までに出てこなかったように思う。
イノセンス」の項で書いたように、不完全な意識を持った「人間」だけが、人形や動物や神などの完全な世界からずれているのだとしたら、ナカタさんだけは完全な世界に住んでいると言える。
もう新しい「聖者」のようなことになっている。


そうして、物語のテーマは「父親を殺し、母と寝る」と、エディプスコンプレックス物で、フロイトで、ギリシャ神話で、絵に描いたような物語の王道なのである。そうは見えないところがすごいけれども。


下巻でどういう展開になるのか、楽しみである。
2年前に読んだが、ほとんど忘れているのである。

海辺のカフカ〈上〉