「スマイル」(ブライアン・ウィルソン)

数年前、たまたまビーチボーイズの「ペット・サウンズ」(1966年)を聴いて、衝撃を受けた。
なんという、ポップさと深さの共存。
ロックとサイケの融合(?)。
透明な美しさ。

ペット・サウンズ


ビートルズ好きなのだから、もっと早く聴くべきだったのかもしれない。
そう思いつつ、ビーチボーイズの他のアルバムを聴いてみたが、他に似た作品はないようだった。
このアルバムは、ブライアンの人生の中で様々な偶然の一致によって生まれた、一つの奇跡であるのかもしれないと思った。
次に生まれるべき「スマイル」という断片はあったが、あくまでも断片に過ぎなかった。
「スマイリー・スマイル」は、パッとしなくて、1回しか聴いていない。
「スマイル」の海賊版も聴いたが、きらりと光るものはあるけれど、荒廃した不吉な感じがあって頭が痛くなったので、やはり1回しか聴いていない。
夢のような世界だけれど、あまりにも夢そのものだった。


その断片が、ついに37年ぶりにブライアン・ウィルソン自身によって再構成されることになった。
本人の中で、それだけの時間を必要としたのだろう。すごいことだ。
僕はたまたま4〜5年待った(待ってないけど)だけだが、ずっと待ち続けたファンの思いはいかばかりか…。

そしてその結果、夢のような世界が作り上げられた。
「夢のよう」と「夢そのもの」は全然違う。
違いは、作品を貫く、構成しようという「意思」だ。
その意思がポップさということで、それがポップスの要だ。
夢の中にもきらりと光るものはあるが、それはきれいなゴミということで、そこに覚醒した精神が入り、構成されたものだけが「芸術」となる。当たり前のことだけれども。
このように注ぎ込まれた精神こそが、芸術を夢や自然そのものと区別するものだ。


そして、新しく生まれた「スマイル」は芸術作品になっていて、何度も聴きたくなる深さを持っていると思う。
当分飽きがこなそうなアルバムだ。
(☆☆☆☆☆)

スマイル