「ピンポン」 松本大洋

高い場所へ向かう意志と、それを阻む目に見えない「選別」。

選ばれた者にしかたどり着けない場所がある。選ばれたものは、どれだけ孤独であっても、どれだけ厳しくても、その道を進むしかない。そこから逃げることはできない。
選ばれなかった者は、どうしてもその場所には行けない。
その違いは努力の量ではなく、どれだけ強く望んだかでもない。それは予め決められていることだ。「才能」とか「運」とかいうものによって。
それはあまりにも簡単なことで、はっきりしていて、だからとても残酷だ。
しかし、選ばれなかったとしても、その事実を受け入れたとき、今まで見えなかったものが見えるようになってくる。今まで切り捨てていたものの価値に気づくことができる。
そして結局、それぞれが、それぞれの位置と役割を知り、それを受け入れ、進むことしかできない。


本当に大変なのは、選ばれてしまったものの方かもしれない。憧れているくらいのほうが幸せなのかもしれない。
選ばれてしまったものは、気づかないふりをしていることはできない。自分の役割を果たさなくてはいけない。選ばれしものの恍惚と不安とを同時に感じながら、人並み以上の努力を孤独のうちに続けなくてはいけない。それは幸福であるとは限らない。
必要なのは楽しむことだ。頭で考えるのではなく、体と感覚に任せることだ。
高い場所からしか見えない景色がある。高い場所でしか感じられないことがある。
高く、遠く、集中し、加速した果てに、音は消え、時間は止まる。
高い場所を見た者たちの間には、言葉にならない感情が通じ合う。
降りなければ全体は見えない。しかし登らなければ高い場所からの風景は見えない。
登りながらも、辛くなったらふいに有体離脱して、登っている自分を別の視点から見るような、そんなことが大切なのかもしれない。夢の中で、ふいに視点が変わってしまうような。


それらの絶対的な事実が、最小限の言葉と、緊張感に満ちた絵で表現されている。漫画でなければ表現できないかもしれない。
表現手段としての漫画のすごさを感じる。