ナンバーガール


ナンバーガールはGSだ」という説を読んだ。
当時のグループサウンズにはどこか、「道を外れる」、「渡世人になる」とでもいう暗く不健全な響きがあって、だからGSは不良の音楽で、バンドをやろうとすると親が泣いて止めたのだと。ギターは「長ドス」だったのだと。今のバンドにはそういう不健全さが感じられないが、ナンバーガールには感じると言う。

なるほど。
確かに今のバンドに、そういった暗い影はあまりない。暗さや弱さの感覚からではなくて、強さの感覚から表現がされているように見える。自己顕示欲とか。今や大抵のバンドにとってギターは長ドスではなくてバットやラケットの代わりだ。

ナンバーガールの音楽には確かに暗さと不健全さがある。腹の中に溜まった衝動。怒り、苛立ち、劣等感。マイナス感情。
だけどそれがすごいのでは、全くない。それが叫びになり、金属的なビートに乗り、「鉄男」のようにサイバーパンクな音の世界を作り出しているからすごいのだ。だから伝わる。伝わらなければ意味がない。

個人的な好みから言えば、弱さから作り出されたような音楽を好む。戦うための唯一の武器として、どうしようもなく作り出されるしかなかったような音楽を好む。でもそれは単なる趣味の問題だ。
今は動機はなんだっていいのだと思える。自己顕示欲から始まっても、劣等感から始まっても、どちらでも同じなのだ。

音楽は様々な動機で人を誘い込む。そして、どんな動機から入ったとしても、ふいに人を深みに誘い込んでしまう。どんなにポップなものを作っていても、ダークなものを作っていても、ある時、ある人達は、ふいに人を深淵に誘い込むような音を作り出してしまう。
それは神が降りてきたのか悪魔に取り憑かれたのか分からないが、ともあれある瞬間にだけ起こるものなのだろう。

どんな人であってもそんな濃い作品をいつまでも作りつづけることはできない。天才であってもある時期、ある期間だけだろう。ビートルズとか、小沢健二とか、中村一義とか、くるりとか、ジミ・ヘンドリックスとか、ワーグナーとか、ベートーベンとか、とか。レベルは違うけど。
やばいものを出しつづけていたら狂ってしまう。神に魅入られたような天才は皆、短命だ。

音楽には、神秘や狂気、この世ならざるものが求められる。
単に力が有り余っているだけではなく、単に社会や制度とうまくいかないだけではなく。この世界そのものと、生そのものとの間に感じる違和感。根源的な過剰や欠落。人間と世界との間の根源的なズレ。
脳や言葉を超え、感情を超え、技術を超えて、それは現れる。音そのものによって、世界に裂け目を作り出し、新鮮な風を吹き入れる。
音楽は、常にそういう役割を求められる。
不健全であっても健全であっても、暗くても明るくても、どっちでもいい。ジャンルも時代も関係ない。そういうどろっと濃い音楽がいい。