「THE WORLD IS MINE」くるり

くるりを聴くと浪人時代、特に春の頃の空気を思い出す。
突然毎日は自由で、教室の重く嫌な空気から抜け出せて、予備校では好きな授業にだけ出ればよく、チャイムに区切られていない時間を12年ぶりに味わい、昼時独りで公園に行ってみたりした。試験はまだ先のことで、不安は形にならない影のようで、だけどなんだか日常の景色は妙に白っぽくて、ほのかに物哀しい感じ。

それから大学時代、特に一番だめな感じの時を思い出す。
学校にも行かず、たいして外出もせず部屋で本なんか読んでいて、昼と夜が溶け合っていき、体調は悪いのに脳だけ覚醒しているような感じ。
熱くもなく、冷たくもなく。ぬるい不安。かすかな苛立ち。脳の一部だけが妙に興奮している。モラトリアムな感情。内省的。独特の情緒。感傷。

前作「TEAM ROCK」みたいなポップさは少なくなり、混沌としている。「WORLD’END〜」で加速し、後半いきなり爽やかに弾ける。
2〜3回聴いたくらいでは、アルバムとしてのまとまりが感じられない。だけど情報はつまっている。心の深い部分を不意に刺激される。
春の日はのどかで、風はぬるく心地よく、木々は芽吹いて桜の花弁が散る。だけど種子やら胞子やら木々のエネルギーやらを過剰に孕んだ空気には、静かな狂気もまた潜んでいる。
そんな感じがする。静かな狂気。穏やかな暗さ。
くるりは、やっぱりブレイクしないかもしれない。

その他
 「EMPYREAN ISLES」HERBIE HANCOCK
 「CLESE COVER」MINIMALISTIX