構築

僕がこうしてホームページの更新を続けるのは、世界を構築することが楽しいからだと思う。
僕は世界に秩序を作り出すことが好きみたいだ。だから世界を広げ、細部をメンテし、構成し直す作業が全く苦にならない。これはきっと庭いじりとかと共通するんだろうな。いや、別に庭いじりの趣味はないけれど。
でも部屋の整理は好きだ。整理とは混沌に秩序をもたらすことで、やはり世界の再構築だ。
作曲も好きだが、これも世界の構築だ。
ホームページはそれらよりも自分の思う通りになり、しかもお手軽である。技術もいらない。消したい過去は消せる。ある程度形になったら満足するだろうから、そこでやめようと思っていたのだが、なかなか満足しない。まだまだイメージが形にならない。
完全に趣味か?ライフワークか?ちょっと嫌だな…。

なぜ僕はこんな風に世界の構築にこだわるのだろうか。生命というのは混沌のなかに構築する秩序であるから、生命の働きとして正しいことではあるけれども。
きっと僕は人並み以上に混沌や不合理なものをたくさん抱えているんだろう。実際、僕の合理的な意識の世界は自分の中で半分くらいしかなく、その半分で他者と対応しているような気がする。なにか重要な部分が他者に伝えられないような気がする。だからそれら形のないものに形を与え、闇に光を照らし、世界を言葉に置き換えて、意識的な世界を拡大し、安心したいんだろう。

しかし、そうした意識/脳の戦略はうまくいくのかどうか。混沌に秩序を与えようとする作業は、例えば砂の城を作ろうとしているような、永遠にビルの掃除をしているような、終わりのない絶望的な戦いであるのかもしれない。実際、時期によって、気分によって、やはり僕は秩序と混沌の間を揺れ動いている。

別の戦略として、「笑い」に持っていくというのがある。言葉にならない混沌としたエネルギーとは狂気の世界でもあり、笑いもまた一種の狂気であるから、笑いによって狂気を散らすという戦略である。だから僕は狂気に近い不条理系の笑いが好きだったりもする。
また、音楽も有効な戦略である。音楽はリズムやコード進行などのルールに従った構築物でありながら、言葉や意識を超えた非合理なエネルギーを含んでいる。同じ楽譜で同じ曲を演奏しても、メンバーによって全く違った音になる。機械による正確なリズム、音程がいいかというとそんなことは全くない。音楽をやることは非合理なエネルギーを飼い慣らすことだ。だから僕はバンドをやっていたし、歌をうたう。
そういえば、進路に迷ったときには「建築」への憧れもあった。建築もまた、言葉になる以前のエネルギーを論理化するものである。

形のない混沌に形を与えるのは芸術の働きである。ジミーヘンドリックスは「俺の頭の中の悪魔がギターを弾かせるのだ」と言ったらしい。あらゆる芸術には混沌としたエネルギーが含まれている。我々は混沌から新たなエネルギーをもらう。
僕はそういくことが好きらしい。
・・・て、これは結局俺の趣味の紹介か?面接で言ったら即落ちるだろうけれども。

「趣味は?」
「はい、私は世界を構築すること、つまり世界に秩序をもたらすことが・・・」
「ありがとうございました。お引取りください。」

これらは、意識(/言葉/論理/光)の側から、無意識(/混沌/闇)を捉えようとする試みである。
しかし、インドに行って以来、僕は無意識の側に立つことを覚えた。覚えた、というより強引にそちらに立たされたのだ。その結果、僕の世界はひどく混乱したのであるが。
無意識の側に立つとは、例えば瞑想をすること。言葉を越え、言葉の湧き立つ場所へと降りていく。言葉が雲ならこころは空。空を見る。
音楽もこちら側の世界に非常に近い。特に、厳密な構成を持たないフリージャズや民族音楽やテクノなんかは。トランス系ってことだ。トリップする。
あるいは、夢は無意識の世界そのものだから、夢を見ること。眠ること。眠りにつく前の濃密な闇を感じること。
闇の中で暗い星を見るように眼を凝らすと、そこには闇の世界の全体性が浮かび上がる。それは曼荼羅である。渦巻きである。あるいは狂人の書く絵である。宗教画の世界である。危険といえば危険な香りもするが、それは実在する世界であると思う。誰もが抱えていて、目を凝らせば見えてくる世界であると思う。

インドに行ったことにより、僕は変な方向に向ってしまったかもしれない。ちょっとバランスを逸していて、あんまりスマートじゃない。でも、一貫していると言えば終始一貫はしている。彼岸から見ていた、恐れながらも強く存在を意識していた世界に、ほんの少しだけ足を踏み入れた。世界を知ろうと思ったら、一度対岸に渡らなくてはいけない。そのうえでバランスを取っていかなくてはいけない。
そしていずれは意識と無意識の世界を統合したいという、途方もない願望がある。いや自分の中でだけど。
しかしそう言いながらいつまでも不安定なのは、きっとボーダーでうだうだしながらバランスを取ろうとしているからだろうと思う。いっそ反対の方向性を意識しながら、一方の世界に向かって突っ走っていけば。
いや、でも「闇の世界」に突っ走っていくのは怖いけど。