「GOGOモンスター」(松本大洋)

客観的には、「学校に適応できずに『あっち側の世界』が見えちゃってる少年が、ついにあっち側の闇の世界に陥ってしまう。しかし現実の世界の唯一の友達の存在のおかげで戻ってこれる。」という話。
…こう言っちゃうと身も蓋もないな。2,500円もする分厚い本だっていうのに。

描写としては「あっち側的」な直接的なものは最小限に抑えられ、あくまで客観的描写が基本になっている。しかし、全体に漂う空気はやっぱり不穏だ。日常の風景なんだけど、犬の目が、花が、影が、構図が、微妙にいつもと違って見える瞬間。(顔が逆さについちゃったりもするけど。)日常のなかの微妙な違和感。一瞬顔をのぞかせる狂気。
ポップなタイトルや装丁とは違い、淡々と進んでいく日常と、微妙に深まっていく狂気、な感じが、迫力があり重い。

最近この手のものを身の回りに引きつけてるな。これも頭痛くなってきた。ドラゴンヘッドの前半に通じる。(後半は読んでない。)
なんか最近、直接的に「異界」を扱う話が増えているような気がする。脳が疼く。
何度か繰り返してるが、異界に陥ってそこから戻ってくるというのは、通過儀礼の物語だ。つまりは「ちびぞうトト」や「浦島太郎」なんかと同じってことだ。爽快感は圧倒的にないけど。

この人は一貫して共同体の外側にいる人を描いている。今回が一番直接的だが。そして外側で独り、どこかに行っちゃいそうになっても、少なくとももう一人誰かがいれば大丈夫、ってことを言ってる。
五島と荒木、花男と茂雄、クロとシロ、スマイルとペコ、そして雪とマコト…。

今回は書き下ろしのせいか、非常にテンポがゆっくりで、「タッチ」の1ページ目がずっと続く感じ。イラスト集に近い。徐々に深まっていく狂気って感じで、重い。
この人の魅力の一つは、加速度的に高まっていくスピード感とテンションの果てに、現実に裂け目ができて狂気の世界にまで達するって感じにあるのだが、それらが全くない。
やっぱり連載でテンション上げてくことが必要なのかもしれない。あと若さゆえの勢いとか。この人漫画を書けない人になっていくんだろうなあ。(もうなってるか。)

若い時に自分の全てを注ぎ込んだような熱く濃いものを作ってしまうと、作品は多くの人を惹きつけて後々まで残るんだけど、作者は枯れてしまうってことが多いんだろうなあ。そういう人は大好きだけど。人が一生のうちに放てる光、熱には限界があるってことだろうなあ。いや、テンションの高い作品を次々に発表しつづけることは期待してるけどね、もちろん。