「20世紀少年」(浦沢直樹)

現在、唯一買い続けているマンガである。
ミステリー的演出のうまさによって、ついつい買い続けてしまう。ほんとに天才的である。
話に粗さはある。というか、設定はハリウッド映画並みにむちゃくちゃである。
「敵の正体が不明」であることが前半を引っ張るミステリーの1つなのだが、それが「誰も子供時代の記憶がない」という、誰か一人くらい覚えているだろう?という点に基づいていたり、「敵」が人心掌握した根拠が不明であるとか、子供時代のある一時期にそこまでこだわる必然性が不明であるとか。
話としておかしな点は、いくらでもある。
しかし、作者がどこまで意図的なのか分からないけれども、そこがまさにすごいところだ。
それらによって、作品全体になんとも言えない非現実的な、悪夢のような不条理な空気が流れていて、それが魅力になっている。


子供時代の記憶は自分の中の「他者」である。曖昧になった記憶は不安を呼ぶ。二日酔いで記憶がない朝の拠り所のなさといったらない。
その、自分の中の闇が、現実となって現れたら悪夢だ。
極めてプライベートな部分が、極めて大きなものにつながっている感覚。
記憶がないくらい昔に行ったことに、責任が発生してしまうという感覚。
荒唐無稽な作り話が、そのまま現実になってしまう感覚。
作品全体を、そんな悪夢のような空気が流れている。
夢オチが最もリアリティのある結末なのだが、そうは終わらないだろう。終わらないでほしい。
だれもが悪夢だと気づいているのに、それでも決して終わらず、だらだらと続いていくというのが恐ろしいところだ。


そして、本当に話が終わらない。
この悪夢感に見あうだけのカタルシスは訪れるのだろうか?カタルシスを作り出すことはできるのだろうか?収拾つくのだろうか?
などと不安になりつつも、ついついまた買ってしまうのである。
早く終わってくれないかな・・・。

(☆☆☆☆)