東京ミッドナイトロンリネス

【無意味】
東京で、深夜で、寂しい。

引きこもりだからだ。
しかも無趣味だ。
えらく暇だ。


今日はずっと独りでしりとりをやっている。
5時間ぶっ続けでやっている。
しかも一週間連続だ。
ルールを緩和して同じ言葉が何回出てもOKとした。
果てがない。
発展性もない。


昨日は「しんぶんし」と五万回連続で言いつづけた。
途中からハイテンションになってきた。
そのうち悲しくなってきた。
涙を流しながら言い続けた。
泣きながら、広告の裏に「正」の字を一万個書き続けた。
自分との戦いだった。
しかも負けた。
ひどく寂しい。
東京で、深夜で、寂しい。


近所にコンビニもない。
東京といっても果ての方だ。
23区だけが東京だと誰が言ったのだ。
山間部だって東京だ。
酒屋が8時に閉まると辺りは真っ暗だ。
近所のヤンキーが公園でたむろしてるのが関の山だ。
しかも9時には皆帰る。
夜が早いのだ。


しかし俺は夜型だ。
深夜が俺の時間だ。
俄然張り切りだす。
そして猛然としりとりをする。


先週はトランプで独り占いをやり続けた。
先先週は自画像を描き続けていた。
先先先週は自分のサインの練習に明け暮れた。
先先先先週は自分の指紋の模写を続けていた。


独りが大好きだ。
独りパラダイスだ。
独り祭りだ。
独り万歳!
独り万歳!
独り万歳!
俺は一晩中繰り返す。
万歳三千唱が目標だ。
今夜は泣きながら万歳だ。
自分との戦いだ。
恐らくまた負ける。
ひどく寂しい。
東京ミッドナイトロンリネスだ。


何とかしてこの状況を打破しなくてはいけない。
来年四十だ。
無職だ。
生活保護を受けている。
主食は小麦粉だ。
そのままなめる。
ガスが止まっているのだ。


腹が減るのでよく眠る。
一日最低十五時間は寝ている。
その他四時間はウトウトしている。
深夜二時から七時までが俺の活動時間だ。
電気がつかないのでほとんど暗闇だ。
暗闇での作業だ。
作業といってもしりとりだ。


やむを得ない。
派手なことをやると見つかる。
奴らに見つかる。
スパイだ。
いや本当は大家だ。
見つかると家賃を取られるのだ。
俺はここにいないことになっている。
ここは廃屋だと思われている。
だが実際は住んでいるのだ。
廃屋満タンだ。
駄洒落だ。


いつまでここにいられるか分からない。
金はなく、家族もない。
夢も希望もない。
将来はレーサーになりたい。
嘘だ。


ただ、死ぬまで生きるだけだ。
目覚め、食物を摂り、排泄し、眠るだけだ。
息を吸い、吐くのだ。
ただ独り、ひっそりと、暗闇のなかで、生き続けるのだ。
東京の片隅で、生き続けるのだ。
息をし続けるのだ。


それが東京ミッドナイトロンリネスだ。
もう朝だ。