黄昏時のポニーテール

【無意味】
ポニーテールは振り向かない

黄昏時のポニーテール。
ポニーテールは振り向かない
振り向かないで走り去る。

それを追いかける。
どこまでも追いかける。
軽くストーカーだ。


しかし離される一方だ。
ポニーテールは猛ダッシュだ。
奴は本気だ。
もう本気で逃げている。


こうなればこちらも本気だ。
逃がすわけには行かない。
生け捕りだ。

生け捕ってポニーテールを切り取るのだ。
そしてコレクションに加えるのだ。
それが俺の唯一の趣味だ。
完全にストーカーだ。
いやもう犯罪者だ。


上等だ。
ストーカー結構。
犯罪者結構。
禁止されるほど燃え上がるタイプだ。
これはもう是が非でも生け捕りだ。
今日は朝までポニーテール祭りだ。
夜通し踊るのだ。
ポニーテールと踊るのだ。


そんなことを考えているうちに見失いそうになった。
黄昏時だからだ。
危ない所だった。
危うく騙される所だった。
ポニーテールに騙される所だった。


ポニーテールなのかどうかも定かではなくなってきていた。
ポニーテールの定義も曖昧になってきた。
一時の志村ケンの髪型はポニーテールだろうか。
検討の余地があった。
熟考に値した。
一度立ち止まって考えてみる必要があった。
しかし立ち止まっている場合ではなかった。


ポニーテールは振り向かなかった。
ダッシュしていた。
危ない所だった。
またポニーテールに騙される所だった。
ポニーテールが揺れる姿には催眠効果があるらしかった。
しかもランナーズハイになっていた。


3年ぶりの猛ダッシュだった。
体ががたがたになっていた。
かれこれ数時間走りつづけていた。
もう限界だった。
心臓が悲鳴をあげていた。
肺がひゅるひゅると音を立てていた。
股関節を脱臼していた。
足の爪が割れていた。
血まみれだった。


それでもポニーテールは振り向かなかった。
左右にゆらゆら揺れていた。
そして猛ダッシュだった。
Tシャツに短パンで猛ダッシュだった。
本格的な体格をしていた。
妙にごつかった。
毛むくじゃらだった。
男だった。


長髪が邪魔にならないように後ろで束ねていた。
本気でマラソンをしていた。
スポーツマンにあるまじき髪型であった。
スポーツ刈りにすべきなのだった。
まぎらわしいにもほどがあるのであった。
黄昏時だから分かりづらいのであった。
しかも振り向かないからよく分からないのであった。


しかしもう後戻りはできないのであった。
朝までポニーテール祭りなのだった。
切ってしまえば同じなのだった。
ポニーテールに性別は関係ないのだった。
そんな生半可なコレクターではないのだった。
俺は本気なのだった。


自分の体がコナゴナになっても構わなかった。
もう命さえも惜しくはなかった。
俺は倒れるまでポニーテールを追いつづけることを誓った。
黄昏時のポニーテールに誓った。


もうずいぶん前から夜だった。