エントロピー

閉じられた系においては、物質とエネルギーの量は不変であり、エネルギーは使用可能なものから使用不可能なものへと変化しつづける。
秩序が生まれているように見えても、その周囲ではより大きな無秩序が生まれている。


生命とは秩序である。
しかし、その周囲により大きな無秩序を生み出しているとすれば、生命の目的とは、「消費」だ。
生産もまた消費である。
生産するために、今やより多くのエネルギーを消費している。


植物から微生物、草食動物、肉食動物に至るまで、動物の生産と消費は、自らの肉体を賭けて行っている。
食物連鎖の輪の中で、それぞれが自らと自らの子孫を増やそうとしながら。
全体としてバランスは取られている。
そこには身の丈を越えた生産も消費もない。


人間のみが過剰を抱えている。
根源にズレがある。
自然からの逸脱がある。
脳の異常発達が原因かもしれない。
人は言葉を話し、イメージすることができるようになってしまった。
強いトラウマを抱え、自然に恨みを持つようになってしまった。
強い攻撃性を持つようになってしまった。
人は快感に導かれ、生存に必要とする以上のエネルギーを使って生産し、それを消費する。
無駄にエネルギーを使い尽くす。
エネルギーを無駄にすれば無駄にするほど、より大きな快感を感じるように生物としてプログラムされているようだった。
そのプログラムに従うと、全てはインフレを起こす。
貨幣は増殖し、スピードは増し、量は増え、光は強く、力は大きく、防御ネットは強固に。


生活に必要なもの全てには、必要以上のエネルギーが注ぎ込まれている。
食物には、トラクターの、化学肥料の、農薬の、ビニールハウスの、加工工場の、ビニール袋の、輸送のための、過剰なエネルギーが使われている。わずかなエネルギーを体内に取り入れるために、莫大なエネルギーが消費されている。
工場では、生産性向上が絶え間なく叫ばれ、設備は更新され、管理手法は発達し、業務改善は進んで、より多くのものを、より短時間に生み出そうとし続ける。
資本は自己増殖をその特徴とする。 


人はその巨大なシステムの中にあっては、もはや主人公ではいられない。
加速するシステムの中にあって、どれほど苦しくても走りつづけるしかない。
全てが加速し、巨大化していく中で、取り残されるわけにはいかない。
それはねずみが回転する車輪の中で走りつづけているようなものだ。


人は何処に向かっているのだろう。


あらゆるものは熱死に向かう。
熱の偏りは拡散し、均一にならされる。
カオスの淵で、創発が生じ、生命が誕生する。
小さな揺らぎが大きな変化をもたらす。
地球は「生命」である。
生命は地球である。
地球は抵抗する。
熱は生命の中に蓄えられる。
地球は分散して熱を持とうとする。


植物のなかにはエネルギーが蓄えられている。
人は木を切り、森を破壊して、エネルギーを取り出す。
それが足りなくなると、石炭として、石油として残されていた過去のエネルギーの蓄積を消費し尽くそうとする。
生命は、カオスを生み出すものである。
秩序とカオスの淵に生まれ、そこに留まりつづけることによって。
熱死を引き起こすものである。
秩序に惹かれ、秩序を作りだそうとしながらも、実はより大きなカオスを作り出すものである。
目的は、「消費」だ。
太陽によってもたらされた過剰な熱を、冷やそうとするものだ。