インド旅日記(9) Meet the Master(バナラシ(2))

夕暮れのガンガー


翌朝目覚めると、記憶は残っているが、意識ははっきりしていた。でも少しぼんやりしていたかもしれない。
シャワーを浴びると、1人、チェックアウトすることに決めた。Mさんを信用できないという昨日の思いは、なぜかまだ残っていた。荷物を持って、買い物にでかけるMさんと一緒に外に出る。

近くで、インスタント焼きソバのようなチャウメンを食べる。
その後、銀行へ行く。Mさんは両替できるところをいくつか探していたができず、僕だけが両替できる。40ドル分。
しかし、そこでなんの気なしに写真を撮ってしまって、もめる。
銀行員のただならぬ気配を感じて、すぐに気づく。そうか、銀行ではセキュリティ上、むやみに写真なんか撮ったらいけなかったんだ。なんでそんなことに気づかなかったんだろう。別にそれほど撮りたい風景でもなかったのに…。と思ったがもう遅い。
銀行員に怒られて謝る。自分は悪人には見られないだろうという無意識の甘えみたいなものがあった。しかし、俺はここでは一介の(しかも小汚いなりをした)外人なのだ。
Mさんには悪いので、先に帰ってもらうことにして、ここで別れる。
そして、銀行員と、
「フィルムを回収させてもらう。」
「いや、でも他の貴重な写真もあるし・・・。」
「大丈夫だ。」
「いや、大丈夫って何が?」
みたいなやり取りをした挙句、よく聞くと近所の写真屋の暗室で、その部分だけを切り取ってくれるらしい。
銀行員の人と、商店街の「富士フィルム」に行く。他の写真もここで現像することに。なんだかちょっと不安だが。仕方ない。
思わぬ時間を取られた。(自業自得だが。)


ガンガーの方に歩いていくと、日本人の女の子に声をかけられる。大学2年生で、女の子2人で来ているらしいが、友達はホテルにいると言う。
一緒にガンガーを眺める。
「…つまらないから、1人で出てきちゃった。疲れて出かけたくないっていうから。なんかその子普通なの。」
「つまり、君がちょっと変わってるんだね。」
「そうかも。」
みたいな会話。ちょっとクールな感じだ。
薬を持っていないかと聞かれる。ちょっとリュックを探してみたが、確か今朝処分してしまった。いっしょにやっている姿も想像したが、テンションは低かった。もういいと思っていた。


一緒に左手の方の火葬場に行き、並んで座っていると、やはり子供達が寄ってきて、しばらくしゃべっている。彼女が鶴を折ってあげたりして。
しかし、次第に子供が集まりすぎ、物をねだりだし、収拾がつかなくなってくる。子供達はかわいいのだが、最後には必ず物をねだってくる。そこで退散。
1人のかわいい小さい女の子が、体をこすりつけるようにして、媚びるような表情で金をねだってどこまでもついて来た。小さな女の子だ。目を見て、「だめだ」と言ったのだが、その大きな、哀しそうな目が印象に残っている。俺はなぜ1ルピーもあげないのだろうか。


別の場所に移動して、河を見ながら一緒にペプシを飲むが、その娘はなんだか声をかけにくく、また本当は1人で昨日のことを考えていたくもあって、(日記を書くつもりだった。)テンションも上がらないので黙って座っていると、しばらくして、「ごめんなさい。」(え?)「なんか・・・。」と言って彼女は去って行った。


しばらくガートに1人で座っていたが、最初に行こうとしていた「PUJA ゲストハウス」に行ってみる。
意外とガートから遠く、薄暗かったが、屋上にレストランがあり、そこからの眺めはよかったので、決める。60ルピー。
まだ部屋が空いていないというので、レストランとそこら辺で時間をつぶすことにする。


薄暗くなってきたガート沿いを歩いていると、マッサージ師が声をかけてきたので、暇つぶしに試してみる。
腕はまあまあか。しかし、途中から、「今までいろんな国の人にマッサージをしてきた。みんな何十ドル、100ルピー、200ルピーくれた。グッドだったらグッド・バクシーシだ。OK?」とかお決まりのことを言い出し始めた。
聞こえないふりをして、終わってからこんなもんかとそれでも15ルピー出すと、「ジョーキング?」ときた。(冗談じゃねえよ!)
「最初にタダだとか5ルピーだとか言っただろ?」と言うと、
「頭だけだと5ルピーだけど全身だと料金は50ルピーだ。」とか言うから、
「頭で5、体で5、足で5だ。」と答え、まだ、
「ボディーは大きいから高いんだ。」とか言ってるので、
「頭が一番大切な所なんだから、体は安くて当然だ!」と大声を出し、15ルピーをたたきつけて去る。(馬鹿な会話…。)
本当は暗闇だしちょっと怖かったが。


PUJAの部屋は狭くて窓のない、薄暗い所だった。
上のレストランに行くと、日本人が1人でいたので、「ここ、いいですか?」と聞き、同席する。インドは5回目だというベテラン。年齢は不詳。話したのは短い時間だったが、すごく興味深い人だった。
インド人は白人だとか、地方によって全く顔が違うとか、薬による跳び方の違いだとか、音楽はテクノと民族音楽だとか、ケチャは宗教と離れているから意味がないとか、ロックは死んでる、でもビートルズはたまに聴くとか、今年はちょっと前はバナラシに日本人、特に学生が多くてうるさかったとか、インドもつまらなくなった、それはテレビが入ってきたからで、テレビを観ている人の目は死んでいるとか、日本は世界の中でもやっぱりおかしいとか、いろいろな話をしてくれる。
目の焦点の合っていない感じの人で、ハイテンションでしゃべるのだ。
そして、薬の話になる。LSDは幻覚を見るから気が狂う人もいるとか。そして、人の顔をのぞきこみながら、今やるとバッドになってやばいね、みたいなことを言う。
バングーラッシー(ラッシーはヨーグルトドリンク。)の店に連れて行ってもらうことにする。「なに知らないの?すぐに分かるよ?今から行こうか?」みたいなノリで。

確かに、ラッシーはゴドウリャー交差点の、交番の前の、一番目立つ所で堂々と売っていた。ここでは適法で、警官も勤務中に飲んでいるとか。(本当か?)
ストロング、ミディアム、ウィークとある。ベテランはストロングを、俺はウィークを頼む。なんと一杯7ルピー(25円)。昨日のは一体・・・。
インドの達人はヒンドゥー語でなにやら、売店の子供としゃべっている。
ラッシーは、どろどろで緑色をしている。味は「ヨモギ」入りラッシーのような感じ。草っぽい。


ガンガーのところまで戻り、一緒にチャーイを呑む。1時間くらいで効きはじめてくるらしい。「日本は片面しかなく、だからオウム事件が起こるんだ。」とかいう話を聞く。
そういえばガンガーのほとりで飲むチャーイはガンガーの水で作っているから注意という話を聞いたが、大丈夫か?

しゃべっているうちに1時間くらいたってしまう。宿に向かって歩いているうちに効いてくる。視界が紫になり、粒子が粗くなってくる。
達人とは途中で別れる。

千鳥足になってくる。酒に酔ったような感じ。
階段を上がっていく場所を間違える。上まで行って気づき、階段を降りる途中でずり落ちそうになる。
2階の窓から見ていたインド人が「Be careful!」と叫ぶ。
楽しい気分で、「Thank you!」と叫び返す。


なんとか自分の部屋にたどり着き、鍵をかける。