インド旅日記(7) 夜明けのタージ・マハール〜さよならアーグラー(アーグラー)

目が覚めると、6F30。こんな早くに偶然目が覚めたことに感謝。
早朝のタージ・マハールを見に行く。朝は100ルピーもするが、ここで金を惜しんでも仕方ない。
人も少なく、静かだ。
タージ・マハール。写真では知っていたが、巨大な石の、静かな、しかし圧倒的な存在感を実際に感じて戦慄が走る。
日が出るに従って、白い大理石の壁の色合いが微妙に変化していく。
そして建物の上から見る、川の色の微妙な移り変わり。
言葉も出ない。


帰って13:00まで寝る。そして、のろのろと起きだし、シャワーを浴びる。
15:00過ぎに部屋を出ると、昨日の2人がいる。
T君はまたシタールを習っていたので、M君としゃべっている。
陽射しが強い。屋上からはタージ・マハールが見える。風が涼しい。


1階のレストランに行って、インド風チャーハン(「中華」らしいが)を食べていると、昨日のイスラエル人の1人がやって来る。
最初誰だか分からなくて、(地味で無口な人だったので、)「Where are you from?(出身は?)」と聞いたら、ちょっと怪訝そうな、むっとした感じで、「イスラエルだ。」と答えられたので、「しまった(そういえばいたな)」と思い、「いや、『Where did you come from?(今までどこにいたの?)』の間違いだった、いやぁ、英語が苦手で…。」というフリをした。
彼らは2ヶ月ほど世界を周っており、今のグループは2週間ほど一緒にいるが、これからまたばらばらになるんだという。
旅の中での出会いと別れ。彼らとも、日本の人達とも、もう一生会うことはないだろう。だけど、昨日の光景は残る。光の中に浮かぶシルエット。ギターと歌と笑い声…。その光景は、それぞれのなかに残る。
他の人達もみんな降りてきて、別れを交わす。
そしてまた一人、外へ出る。


時間があったので、もう一度ゆっくりアーグラー城を見ようと思う。
歩いて行こうと思っていたが、道もよく分からなくなってきたので、サイクル・リクシャーに乗る。自転車のリクシャーは初めて。なんかいい人で、昨日のことなど話しながら行く。バザールへ行こうとか、ハッシシをやらないかとか言っていたが、断ったらちゃんとアーグラー城へ行ってくれる。10ルピー。
アーグラー城を再びゆっくりと周る。やはり体が震える。奥まったところや、古びたところに惹かれる。しーんという音が聞こえるような気がする。昔の人々の気配が残っているような気がする。歴史の重さを感じる。数百年前、ここにも生活があったんだ。


18:00頃、外に出る。しつこく声がかかる。慣れてからは大きい声を出すことにしている。照れや、ちょっとした気取った合図、小声はここでは通用しない。
が、サンダルにちょっと惹かれ、最初250ルピーだというところから150、100と下がったところで(その間一緒に歩きながらずっとついて来ていた)、「50だ。それで買うか買わないかだ。」と言ったら、「OK」。
しかし財布には100ルピー札しかなく、まずいなと思ったら、案の定おつりを渡すときに60ルピーだとか言い出した。「50は品物の原価で、10が利益だ。」とか言うから、まあいいかと思い、結局55ルピー払った。
近くで見ていたリクシャーワーラーが、「good price!」と言ってくれた。


バス停まではやはり道が分からなくて、仕方なく2ルピーだと声をかけてきたサイクルリクシャーに乗る。サイクルリクシャーの人がみんないい人ばかりではないらしく、今度のやつは土産物屋に行こうと言い出し、断ると、じゃあ50ルピーだとか言い出す。
怒って車を降りると、ついて来て、30だ、20だ、15だ、いや10だ、と値段を下げてくる。
「5ルピーだ!」と言って乗る。
が、そうするとまた土産物屋に行くとか10ルピーだとか言い出して、もめる。
「もし土産物屋に行ったらいくらもらえるんだ?」と聞いてみたら、買っても買わなくても1軒につき5ルピーだと言う。だから、2軒見て客から2ルピーもらうと12ルピー入るんだと言う。
正直そうなので、10ルピー払うことにしてやると、とたんに機嫌がよくなり、「Hello!Hello!コンニチハ!!」と大声で繰り返している。なんだかいいな…。

しかし結局、大回りして走った挙句、バス停(バスだまり)は、アーグラー城のすぐ近くだった…。
にこにこして握手してこようとするから、拒否!しかし、なんか憎めない。笑ってしまう。


バスはやたらと多く、英語は通じなくて、目的のバスを探すのが大変。英語の表示もない。何人かに、ひたすら「to トゥンドラ?」と繰り返す。
タオルをターバンのように頭に巻いた、やせた老人の運転手に聞くと、言葉は通じないながら、「そこに座れ」って合図らしく、一安心。
なんとか目的のバスに乗りこむ。
バスに乗っている人達は、想像していたよりいい人達だった。言葉は通じないけど、「荷物を置け」と合図してくれたり、料金の払い方を教えてくれたり。
そして、ターバンの老運転手はかっこいい。ホーンを鳴らしつつ、快調に、力強くバスは走る。すごい追い越しだ。大丈夫か?しかし、老運転手は平然とハンドルを切っていく。頼もしい…。
夕暮れの街を、ホーンの音を響かせて走るバス。たくさんの、異国の人達の中にいて、涙が出そうになった。うまく言えないけど、インドは、いい。すごく。なんか、帰りたくなかった。
当然だけど、観光客を相手にしていない、英語もしゃべれないインド人はたくさんいる。普通に仕事をしている、普通のおっさんはたくさんいて、そして旅行者に、普通に配慮してくれる。
日本人を見かけると、笑顔で「Hello!こんにちは!!」と声をかけてくる、たくさんの、ごく普通の人達。
インドにいるのは楽ではない。街は雑然としていて、人は溢れかえっている。だけど、それぞれが生活をしている。エネルギッシュに、明るく、生活している。
そういう生活に触れると、涙が出そうになる。


19:00すぎ、トゥンドラだと周りの人が教えてくれる。
バス停は、なんか広場のようなところにある。インド音楽がスピーカーから流れている。真っ暗でよく分からず、近くの軍人風の人に聞くと、駅は歩いては行けなくて、オートリクシャーで1〜2ルピーだと教えてくれ、親切にも話をつけてくれる。
確かに駅は結構遠く、狭い道をまっすぐ、結構走る。でも10ルピー取られる。
駅は暗くて、外人はあまりいない。ヒンドゥー語が飛び交っている。駅員に聞いたりするが、どの車両に乗ればいいのかよく分からない。
そこにやってくる1人の男。
「70ルピーで案内をしよう。」とか言ってるのを聞き流し、席を探してもらう。なんか手間取っていたが、駅員と話したりして、やがて1台のコーチ(客車)に連れて行ってくれる。こんなの1人じゃできないから、頼るしかない。
だから、乗りこむところで、「70ルピーをくれ」と言うのに対し、「Yesとは言ってない」などとインド人のようなことを言いながら、でも10ルピーあげた。しぶしぶ受け取っていた。


しかし乗りこんでからも、またもめる。
ここだと言われた席にはすでに人がいる。どういうことだと言うと、「おまえの席は向こうだ」と言う。インド人得意のセリフだが、確かにチケットとは番号が違うようだ。駅の案内人がいい加減なことをやったのかもしれない。
チケットに書かれた席に行ってみると、「それはwaitingチケットだ。」と言われる。ちゃんと予約が取れていないのかもしれない。チケットをよく読んでみると、確かにそんな風に読める。
困って、また最初の席に戻る。最初に声をかけてくれた人がまた声をかけてくれ、状況を説明すると、周りに話をつけてくれて、やっと寝台を確保することができた。


大きい声も出したので、人が集まってきてしまった。
「だいじょうぶですか。」とふいに日本人に声をかけられ、ほっとしたのと同時に、照れを感じた。
1人では何もできなかった。2等車両に乗っているような普通の人達も、いい人たちなんだと思う。荷物を盗まれないように、ものすごく気を使っていたのだが、そんな人間ばかりではない。
列車の中でたまった日記を書く。
薄暗くて、激しくゆれる。