インド旅日記(5) 騙しの手口 (ジャイプル〜デリー)

ammon11111996-03-17


10:00起床。
下に降りていくと、中庭で昨日の「ベテラン」氏を含めて日本人が3〜4人でしゃべっている。(Kさんはいなかった。)
しばらく一緒にしゃべる。いろいろと情報も得る。滞在が長い人が多い。
いい感じの人が多くて楽しかったが、昼頃、一人宿を後にする。


一人だと不安と自由の両方がある。
どこを歩いたのか自分でもよく分からないまま、ピンクシティ(旧市街)を通り抜ける。声をかけてくる人間も少なく、割と静かに歩ける。
露天で服を売っていたりして、それをのんびりと見ながら歩く。
声をかけてくる人もいるのだが、しつこくないし、「Hello!」だけの人もいる。
途中、絵の学生だという男が声をかけてきたので、そんな雰囲気だったし、しばらく歩きながらしゃべり、言葉を教えあったりしていたが、「うちに来て絵を見ないか?」と言われたので別れる。いい感じの人だったし、ひょっとしたら別に問題はないのかもしれないが、最低でも絵を売りつけられるだろう。


途中、金をねだる子供達に囲まれて、笑いながら走って逃げ、車道に飛び出したらバイクにはねられた。
が、この国では皆スピードを出して走っていないので、全く怪我はしなかった。軽くぶつかった、という感じ。
子供達に心配される。話に聞くような危険な雰囲気ではなくて、和やかな感じだった。


朝は薄曇りだったが、次第に晴れてくる。楽しい気分で、少しは街にもなじんでいると感じつつ歩く。
動物園にでも行こうかと思いながら歩いていると、旧市街を抜ける門に出る。しかし、自分の思っている場所とどうも様子が違う。坂道になっていたので、そのまま丘の上まで登ってみる。
そこに日本人がいたので、「ここはどこですか。」と聞くと、この人もまた旅慣れた感じの飄々とした人で、笑いながら「きてるなー。」とか言いながら場所を教えてくれ、ここが「ガルタ」という所であることが分かる。自分の思っていたところと方向にして90度ほど違っていた。「歩き方」の地図はよくない。(責任転嫁)
しかし、猿や山羊などの動物がすぐ近くにいて、街並みが見渡せ、なかなかよいところだった。


オートリクシャーで街の中心まで戻る。
土産を買おうと思ったら、店は休みだった。そこで今日は日曜だと気づく。
屋台で豆を買ったりしてうろうろしていると、一人のインド人に声をかけられる。(いや、たくさんかけられてるんだけど。)「そのスニーカーはどこのだ?」と。
どうもこういう会話に引っかかる。デリーでも、「タバコをくれ。」に引っかかったし。
そして、「日本人か?日本のどこだ?東京か?京都か?名古屋か?」などと知っている限りの地名を挙げて聞いてくる。
千葉だと言うと、「千葉では大変なことがあった。地震があった。新聞で見た。」などと言われ、心動かされる。
いつだと聞くと「五日前だ。」と言うから、明らかに嘘なんだけれども。五日前は僕はまだ日本にいる。
しかし、その時はとっさには分からず、「もしかしたら…。」くらいの微妙な不安が残る。
最初にインパクトがあると、そのまま一緒にいがちだ。なぜか一緒にコーラを飲み、会話を交わしている。
「日本に友人がいる。」とか「日本のテープを持っている。」とか言う割に、日本の事を知らなかったり、音楽のタイトルも言えなかったりして、だめなんだけど、身なりがしっかりしているのもあるし、最初に好印象を持ってしまうと、一方的には別れづらくなる。
で、「自分は指輪を作っている。100ルピーくらいからあるから、オフィスに行こう。」と言われる。「今日は日曜で、他はやっていない。」とか、「駅の近くだから、ついでに寄って行けばいい。」とか。
これはだまされるぞ、と思いながらも、暇つぶしになるかもと思い、バイクの後ろに乗って一緒に行く。


「オフィス」は、ジャイプル・インの先の住宅街の中にあるアパート風の建物の2階にあった。
あまりに怪しく、帰ろうとするが、「今日は日曜だからショップは閉まってるんだ。」とか言われ、中までついて行く。
部屋の中には「ボス」と呼ばれる男が座っていた。
立派な机。「ボス」も30代くらいの、「青年実業家」風。ハンサムで、迫力があり、仕事ができそうな感じだ。
部屋の中に入る時、不安なので念のために靴は一緒に持って上がっておいた。
机の前に座ると、「ボス」は安そうな指輪をばーっと並べる。
値段を聞くと、物によって150ルピーとか130ルピーとか言う。2つで150でどうだと言ってみたら、なんか怒っていて、「ここは工房だから、fixed priceだ。」と言う。だいたい、僕に英語があんまり伝わらないことにもむっとしていたようだが。
そろそろ土産を買っておこうと思っていたところでもあるので、3つで383ルピーのところを350ルピーで買う。まあいいんだけど、こうやって買っちゃうのって、負けたみたいで嫌な気がするんだよな…。
帰るポイントはいくつかあるんだけど、やっぱり、相手のペースに巻き込まれているようだ。


その後「ボス」が、「今度日本に行って宝石を売るつもりだ。」という話を始める。
「5倍で売りたいが(2,000円か?どこで売るんだ?)、問題がある。税金だ。」と。
「旅行者だと税金はかからないから、日本に持ち込んでくれ。住所を書いてくれれば、後で部下が取りに行く。」
…って、英語は半分くらいしか分からないんだけど。書いてあったからね。「歩き方」に、あらすじが。
それにしても、自宅にインド人が訪ねて来ている様子を想像すると笑える。
「すいません。指輪を取りに来たんですが。インドから。」
日本の住宅街にインド人はあまりに似合わない。駅からバスに乗ってくるのだろうか?
でも怖いのは、さんざん手口を読んでいても、いざこういう流れで来て、立派そうに見える彼を見て、金はいらない、と言われると、信用しそうになることだ。
「双方が儲かる。金を作りたくはないか?」という言葉で我に返り、
「俺は自分の努力で金を稼ぎたいから。」とかなんとか適当なことを言って席を立つ。
「座って話をしよう。」とか、「外にいる奴がおまえを帰さない。」とか言われたような気がしたが、聞き違いか、冗談か、本気か分からないが、全くそんなこともなく、普通に外に出られる。バイクの兄ちゃんもフレンドリーだった。
駅まで送ると言われたが、断って歩いて行く。
こういうことがあると疲れるが、ないとつまらない。
駅で1時間ほど時間が余ったので実家に電話してみる。当然、地震はなかったようだ。


2度目に来たデリーは、前ほどうるさくは感じなかった。声をかけてくる奴を相手にしなければいいのだ。
宿はバザールの中の、「アヌープ」にする。150ルピーだが、明るくてきれい。屋上のカフェもいい感じだ。街が見下ろせ、涼しい風が吹いている。こういうところで1日のんびりするのもいいかもしれない。
日本人2人組に話しかける。14日の深夜に到着して、まだデリーだけだと言う。大学3年生で、1年休学しているとか。旅慣れていない様子。ほか、別の場所から移動してきた人、一人で来た人といい感じの人がいるが、雨が降ってきたのでそれぞれ部屋に戻る。
バタイユを読む。強烈だ。
起きていたかったが、1:00に寝る。