行中検査

【不条理な笑い?】


「おい山粼、明日、行虫検査らしいぞ。」
昼休みに健二が話しかけてきたと思ったら、行虫検査の話だった。
こっちは食事中だ。
「なんだよ。今そんな話するなよ。」
「悪い悪い。でもさ、行虫検査らしいぞ。明日。」
なんて奴だ。
「分かったよ。あれだろ?『ポキール』とか使うやつだろ?まだやるんだな。そういうの。」
「ポキール?」
「知らないのかよ。透明なシールみたいなやつでさあ。肛門に張るの。」
「知らないよ。」
健二はなぜかムッとしているようだった。
「とにかくさ。やるんだよ。行虫検査を。」
まったくしつこい奴だ。
「伝えたからな。じゃあな。」
健二はそれだけ言うといなくなった。


なんなんだ?
よっぽど行虫検査の話がしたかったのか?
そんな奴はいない。
俺への嫌がらせか。
意味不明だ。
そう言えば、健二としゃべったのは久しぶりだ。
なんなんだ一体。


結局その日、「ポキール」は配られなかった。
やらないじゃねえか行虫検査なんて。
なんなんだ一体。


翌日、学校に行ってみると、どことなくいつもと雰囲気が違っていた。
「今日なにかあるの?」
俺は隣席の木村に聞いてみた。
「ん?…あ、ああ、榊原ー!!」
いなくなった。
露骨に避けられた。
誰だよ榊原って。
何かある。
俺は素早く後ろを振り向いた。
全員が一斉に目を伏せた。
なんなんだ一体。
 

前の扉がガラリと開き、先生が入ってきた。
白衣を着ている。
うちの担任は国語担当だ。
どうしたんだ一体?
俺は笑おうとしたが、誰も笑っていないことに気づいた。


「おはようございます。えー、では、これから行虫検査を行います。」
教室はシーンとしていた。
「本日の検査は、…山崎君です。」
山崎…俺じゃん。
先生がまっすぐにこっちを見ていた。
やばい。
何だか分からないが、逃げなくては。
しかしもう遅かった。
俺は周囲の奴らに羽交い絞めにされた。
抵抗を試みると、ボコボコにされた。
俺はぐったりとなった。
視界が赤く染まった。
奴らは本気だ。
もう逃げられなかった。
先生がゆっくりと近づいてくる。
そして俺の前まで来ると、おもむろに俺のズボンをパンツもろとも下ろしにかかった。
抵抗すると、蹴り上げられた。
俺は完全に諦めた。
先生はゆっくりと俺のズボンとパンツを下ろした。
女子も見ている。
俺は真っ赤になった。
しかし、先生はそんなことは気にもとめず、俺の肛門に何か薬を塗ると、ゴム手袋をはめた手を突っ込んできた。
「ちょ…、マジ?」
聞く耳を持ってはいなかった。
そしてその手を再び引き出すと、手には白くて細長い物体が握られていた。
行虫だった。
「ほおらやっぱり。」
先生がニヤリと笑った。
そしてそれをズルズルと引き出す。
肛門にむず痒い感覚が起こった。
白い物はズルズルと途切れることがなかった。
ズルズルズルズル。
腸の辺りがくすぐったい感じがした。
ズルズルズルズル。
それは永遠に続くかのように思われた。
辺りには異臭が漂い、引き出された行虫は教室の床をウネウネとのた打ち回っていた。
皆が吐き気を必死でこらえていた。
女子のなかには泣き出す者もいた。
誰だか分からないが、数発後ろから殴られた。
何故俺がこんな目に。
俺の目に涙がうっすらと浮かんだ。
 

やっと終わった時、行虫は3メートルにもなっていた。
それが床をウネウネと這いまわっていた。


「さあ、これからが行虫検査の始まりです。徹底的に検査を行って頂きます。」
そういう先生はなぜか嬉しそうだった。
行虫は先生によって細かく切り分けられ、1人ずつ手渡された。
今や誰もが泣き叫び、教室の隅では数人がうずくまってもどしていた。
教室は凄惨な光景と化していた。
「今日は一日中行虫検査です。徹底的に検査をするのです。」
はははははは…。
先生が高らかに笑った。
生徒は皆、泣き叫んでいた。
俺は脱力して転がっていた。
全身が打撲で痛み、頭からは血が流れていた。
ズボンとパンツは汚物処理に使われ、下半身は丸出しのままだった。
腸は空っぽになったようだった。
空虚感と脱力感に襲われ、俺は動くこともできなかった。
ただひたすら涙がこぼれた。
行虫検査なんて、もうこりごりだ…。


「・・・と、昨夜、このような夢を見ましてねえ。」
「それで?」
「ええ。従いまして、今日はとても嫌な気分だったので、ポキールを持参しなかった次第であります。」
「忘れたんだろ?」
「え?」
「要するに、行虫検査を忘れてたんだろ。」
「あ、はい。」
「明日必ず持ってこいよ。お前だけだからな、忘れたの。」
「あ、はい。」